マイクロファイナンスが素人でもすごいと思うのは、貸倒率の低さです。それも消費者金融と大きく違う点ですよね。これには何か理由があるのですか?
----菅先生
その一番の理由は、借り手との信頼関係に基づいた金融だということです。マイクロファイナンスは、融資申請の段階から借り手と一緒に事業計画を考えるなど借り手との信頼関係を構築していきます。融資を実行した後も、借り手の事業をモニタリングして借り手との関係を継続して築きます。借り手が収入を生み出す活動・事業を開始・継続できるのか、人物や事業を目利きして、信頼関係を築くことができる人に貸すというのがポイントでしょう。そして、借り手に寄り添う姿勢で、借り手の相談に乗ったり、就労支援を行ったりしてきめ細かな信頼関係を構築するのです。
それはなかなか日本で実現するのは難しいことなのではないですか?
----菅先生
日本の金融機関でも実際にこういうことをやっている実例があります。それは岩手県信用生協という金融機関で、多重債務者に融資をしていながら、なんと貸倒率は0.3%です。驚異的な貸倒率です。借り手の立場で返済計画や事業計画を立て、弁護士や司法書士などとチームを組んで借り手と「顔の見える」関係を築いているからなんです。
素晴らしいことですね。
----菅先生
世界金融危機を経て、日本の社会がこれからよくなっていくためには、「底上げ」が必要だと思います。中間層が元気でなければ、社会全体が機能しなくなります。そのためにもマイクロファイナンスは有用なものです。
これから日本でマイクロファイナンスが広まっていくには、何が必要なんでしょうか? 政策ですか?
-----菅先生
マイクロファイナンスの今後の展開を考えると、市民、企業、金融機関、政府の4つのプレーヤーが同時連立方程式的に解を求めていくプロセスと言えるでしょう。
方程式……、ですか?
----菅先生
4つの変数(4つのプレーヤー)が相互に関連しており、それらがそれぞれ行動を起こす必要があるということです。最初に動いてくれるプレーヤーがいれば、それ以外のプレーヤーも行動を起こし、社会にマイクロファイナンスが普及していくことになるのだと思います。政府が政策や法律を作るだけではマイクロファイナンスは発展しないでしょう。また、市民や企業や金融機関が他者や社会のことを、「共感」を持って考えることがなければ、貧困は決してなくならないと思うのです。それぞれのプレーヤーがそれぞれの立場で役割を果たすことでマイクロファイナンスは大きく広まっていくと思います。
そのためにはマイクロファイナンスを知ってもらうことがまず重要ですね!
----菅先生
そうですね。日本の社会が住みやすい、サステナブルな社会に変わっていくためにもマイクロファイナンスやソーシャル・ビジネスのことをたくさんの人に知ってもらいたいと思います。
菅先生はノーベル賞を受賞された、ムハマド・ユヌス教授にも直接会って来られているんですよね。どのような方なのですか?
----菅先生
ユヌスさんは、人徳者で、かつカリスマのある方です。実はユヌスさんを今年(2009年)9月29日に日本にお呼びしています。その際、北海道大学から名誉学位を授与させていただく予定ですが、併せて、札幌の都心でシンポジウムを行う予定です。研究者や学生だけでなく、市民の皆さんや一般の日本の方々がユヌスさんと直接対話をしていただいて、ユヌスさんのお考えや人物を肌で感じていただければと思っています。この公開トークセッションは無料で誰でも参加できるようにしたいと思います。是非皆さんにも参加していただければ、ユヌスさんと直接触れ合うよい機会になると思います。
そうなんですか。こんな機会は、なかなかないですよね。是非伺いたいと思います。
お待ちしています。
菅先生自身の今後の目標もお聞かせいただけますか?
----菅先生
そうですね、まずはマイクロファイナンスを日本に広めていくことが一つ。マイクロファイナンスが日本に普及することで貧困のない社会ができ、それが世界へと繋がっていくようにしたいですね。それと自分でもソーシャル・ビジネスに関わる活動をしていきたいと考えています。
では、最後になりますがこのインタビューをご覧いただいている若手経営者たちにメッセージをお願い致します。
----菅先生
自分の夢を叶えることは大切なことですし、若い経営者の方々がその実現のために一生懸命に頑張られるのは素晴らしいことだと思います。その時に私的利益を追求すると同時に、社会的価値も創っていくということを頭の片隅に置いてもらえると、さらに働きがいや生きがいが生まれ、また、社会もよりよいものに変わっていくのではないか、というのが私のメッセージです。そうすれば、私たちが住んでいる社会はより住みやすいところになり、サステナブルなものになるのではないかと思います。皆様のご健闘をお祈りしています。
本日は誠にありがとうございました。
(2009年6月15日取材) |