今回のM.I.Eビジネスサイト・トップリーダーインタビューは、先進国を含めた世界各国で広く普及しながら、日本ではあまり知られていない“マイクロファイナンス”をわかりやすく紹介する『マイクロファイナンスのすすめ』を2008年10月に上梓し、持続可能な社会の実現のために活動を続けていらっしゃる菅さんにお話をお伺いします。
菅先生(※インタビュー時は教授在職中でしたので、本稿中ではこの敬称を使わせていただいております)、本日は、誠にありがとうございます。ご本を読ませていただきました。普通、金融の話は一般の人間には非常に難しく書かれているのですが、先生のご本は万人に分かりやすく、明快にマイクロファイナンスの概要を理解できました。
----菅先生
そうおっしゃっていただくのは、著者として何よりも嬉しいです。
マイクロファイナンスというのは、こうすれば儲かるという話ではなくて、みんなが平和に生きていくためには、こういうお金の使い方があるというか、金融ビジネスの手法があるという話だと捉えたのですが、間違っていますでしょうか?
----菅先生
エッセンスはその通りです。もうこれでインタビューは終わったようなものですね(笑)。
いや、もっと詳しく教えてください(笑)。まずお聞きしたいのは、菅先生は何故マイクロファイナンスにご興味を持たれるようになったのですか? 普通、財務官僚という立場にある方があまり主張されるようなことではないイメージがするのですが……。
----菅先生
マイクロファイナンスに興味を持ったのは、公的な面と私的な面の両方の要因があります。まず公的な面では、財務省主計局で現在の厚生労働省担当の主査をしていたことがあり、その時に社会福祉や雇用の問題に関心を持ちました。その後、国内金融や国際金融の行政に携わり、社会福祉と金融の交わるところがマイクロファイナンスでした。これまでの行政官としての経験はマイクロファイナンスのためにあったとさえ思えるようになったのが一つの出発点です。
私的な面というのは?
----菅先生
私にとって身近な人が事業に失敗したことがありました。その時、日本の社会は弱い立場の人に優しくないシステムになっていると実感しました。このような社会は私たちにとって住みやすい社会と言えるのだろうか、と。そんな思いもあって、マイクロファイナンスにのめり込んでいきましたが、研究すればするほど、これは日本に必要なものであり、また日本でできないことはないと強く思うようになりました。そのことを世に問おうと思い、この本を書いたのです。
何故、日本ではマイクロファイナンスが発展していないのでしょうか?
----菅先生
マイクロファイナンスは、2006年にバングラデシュのグラミン銀行総裁であったムハマド・ユヌス教授がノーベル平和賞を受賞して、一躍世界的に有名になりました。そんなこともあって、日本ではマイクロファイナンスは開発途上国のものというイメージが持たれています。また、GNP世界第2位の日本では、貧困など存在しないのではないかとさえ思われていることがあります。その他にも、社会保障制度や金融制度が発達している日本では、国や地方自治体に任せておけばよいと思われたり、市場競争のもとでは優勝劣敗が当たり前で、そもそも貧困は自業自得で「個人の問題」と思われたりします。そのような社会の眼差しの中で、「共感」を前提とするマイクロファイナンスがなかなか広がらなかったという事情があるのではないでしょうか。しかし、これらのイメージや考え方がそうではなかったり、変わってきたりすれば、日本でもマイクロファイナンスが普及しないはずはないと確信しています。
日本では消費者金融が発達しているという話もありますが……。
----菅先生
消費者金融とマイクロファイナンスは、「無担保無保証の小口融資」という点が似ているだけで、実は全く異なるものです。ビジネスの理念や手法、融資対象、審査方法、債権管理などの様々な面で全く異なります。消費者金融は企業利益の最大化が究極の目的で、そのために存在するビジネスですが、マイクロファイナンスは私的利益を追求すると同時に、貧困削減という社会的利益を追求することが目的です。ビジネスの手法を活用して、貧困削減や地域再生という社会的利益を求めるのがマイクロファイナンスです。この違いが、様々な面で消費者金融とは180度違うビジネスモデルを生むことになります。
共存共栄のためのシステムなんですね。
----菅先生
マイクロファイナンスは、今後、日本に持続可能な社会を作っていく鍵になるものだと思っています。世界各国でもそういう視点でマイクロファイナンスが実践されています。日本でもできないはずはないのではないでしょうか。
その通りですね。 |