平居さんのビジネスキャリアで、転機のようなものはあったのですか?
----平居
昭和53年から10年間出向した「マスヤ」では、企業再生に関わりました。合併に伴う合理化の指揮を執ったんです。ここでもは人心をまとめることの難しさを感じましたが、それがまとまった時の力強さを実感することができました。そして赤福に戻った時には、取締役財務部長ということになったんですが、46才で財務のことは全く知らなかったんですよ(笑)。
どうされたんですか?
----平居
一から自分で勉強しました。仕事から帰ったら毎日勉強です。その後、ビジネス人生で一番大きな経験のおかげ横丁建設に関わることになりました。
地域再生に関われたお話ですね。是非、詳しくお聞かせください。
----平居
江戸時代から続くお伊勢参りで知られる伊勢神宮は、年間約600万人の観光客が訪れるところです。しかし、お伊勢参りの門前町として栄えたおはらい町通りは、国道等の整備により人の流れや観光ルートが変ったことで危機的な状況にありました。当時、赤福本社はおはらい町通りの中程にあり、その町を何とかできないか、と考えたことから本格的にプロジェクトがスタートしたんです。まず伊勢らしい情緒ある街並みを再生することを考えました。赤福が伊勢市に5億円を寄付し、その寄付金の一部で基金を作り、伊勢らしい街並み作りに協力してくれるところに無利子に近い形で融資をしました。街並みが伊勢らしく整ってきたところで、次は魅力のある施設を作り集客することが必要になります。そこで「おかげ横丁」建設することになりました。
いろいろと困難はあったと思いますが、何が一番大変だったのですか。
-----平居
役所との調整には難しさを感じました。規制等がいろいろありますからね。でも、交渉事の基本は人間関係ですから、こちらの希望や利益だけを主張するのではなく、持ちつ持たれつと言いましょうかgive and takeと言いましょうか、知恵の与え合いをしていけば、物事は解決できるものだと実感しました。結果的には、年間10万人程度、それもほとんどが正月の参拝の時にしか人が訪れなかったおはらい町に、おかげ横丁がオープンした年で約155万人、昨年は約396万人のお客様においでいただくことができました。
地域再生の成功事例として全国的に注目を集めていますね。成功の秘訣は何だったのでしょう?
-----平居
一番は伊勢神宮があったということでしょう。お金のかからない最高の観光資源があったわけですから。しかし、おはらい町通りの再生、おかげ横丁の開発が目標以上に成果を修められたのは、この事業をやり遂げることに意義があると納得し、地域に取っても一番いいことだと思い、使命感を持って事業にあたってきたことがあったからだと思います。決して人任せにはせず、自分自身が動いて、交渉してきました。地元の方々にもそのような姿勢は理解していただけて、ご協力をいただけたのだと思います。
本当にいい町になっていると思います。
----平居
これからも伊勢神宮を訪れる方々に増々楽しんでもらえるように、新しいことも考えていきたいと思っています。
平居さんの現在のお仕事は?
----平居
昨年からリゾートホテル「志摩地中海村」の社長に就任しました。風光明媚な志摩の海の美しさを満喫できる立地にあるホテルです。ハードな仕事の疲れを癒すのには最適ですから、皆さんも機会があれば是非一度いらしてください。それと濱田総業の執行役員として、赤福の再生のために取り組んでおります。これからは決してお客様を裏切らない企業となるように全社的に進めております。
お忙しそうですね。
----平居
プライベートな時間はほとんどないですね(笑)。でも早く次の世代にバトンタッチしないと発展もないですから、5年以内には要職からは退いて、旅行が好きなので将来は旅三昧の生活を送りたいと思っています。
まだまだ頑張って欲しいと周りは考えていると思います。
----平居
仕事を中途半端にはしたくないですから、納得するまではやりますよ。
では、最後になりますが、若手企業家たちへのメッセージをお願いします。
----平居
仕事で一番大切なことは、お客様を裏切らない、ということだと思います。当たり前のことなのですが、難しいことでもあります。そして、私のビジネス上の経験で言わせていただけば、「為せばなる成る、為さねば成らぬ何事も」ということです。私が仕事でやってきたことは始めは知らないことばかりでした。会社の仕組み、営業所での仕事、企業再生、財務管理、地域再生……、その時々でそのことを学び、とにかく目の前の仕事に正面から立ち向かって参りました。やろう、前に進もう、としなければ、決して何もできないのです。自分の信じた道を行けば、きっと道は開けるものだと思います。若い皆さんにはチャンスはたくさんあるはずですから、直進あるのみで頑張っていただきたいと思います。
本日は大変お忙しいところ、誠にありがとうございました。
(2008年6月4日取材) |