今回のトップリーダーインタビューは、製薬企業やバイオ関連企業で研究員を務め、その後バイオベンチャーを立ち上げ、日米のバイオサイエンス業界のリエゾン役として活動し、現在は大阪大学で新産業創成研究にも携わる千田さんにお話をお伺い致します。まず、経歴を見て気になっているのですが、『岡山大学工学部、薬学部卒』とあるのは?
----千田
大学入学時は、まぁ当時の人気もあって、あまり深く考えずに工学部を選んだのです。そこで4年生になって、卒業研究等でする実験は非常に面白かった。でも、工学部では直接的に人の役に立つことを研究することが基本なので、私自身はもう少し物事の本質を突き詰めるようなことを研究したいなぁと感じるようになったのです。それで、学士入学で他の学部でさらに学べるところはないかと探したら、薬学部に定員の空きがあったので、工学部を卒業後、そこへ進んだのです。
今、薬学部ってすごい人気ですよね。それを見越していらっしゃったんですか。
----千田
21世紀は生命科学の時代ですからね。人気もありますし、入試のレベルも上がっているでしょう。でも、私はそんなことを考えていた訳ではないです。工学部でやっていたことよりも理学部的というか、もっと物事の本質に迫ることを学びたかった、という理由が一番です。ところで、薬学部ってどういうことをするところか、ご存知ですか?
薬についての研究をするのではないですか?
----千田
もちろんそうなのですが、薬に関わること、もっと言えば人間の体に役立つ可能性があることであれば、何をやってもいい学部なんです。私も入ってから知ったのですけどね(笑)。理学部ほど堅い理論追求ばかりではないし、工学部ほど応用的な研究ばかりでもない。非常に学際的なところなんですよ。基礎医学的なことも学べましたし、いろいろなことをできてよかったと思っています。
それは現在の千田さんのビジネスにも役立っていらっしゃいますよね?
----千田
そうですね、非常に役立っていると思います。ちなみに、卒業後は薬剤師の免許も取りましたよ。取れるものは、取っておこうということでね(笑)。
大学卒業後は、製薬会社の研究所などを経て、アメリカでバイオベンチャーを起業されました。
----千田
バイオ関連産業は日本よりも、アメリカの方が数段進んでいます。しかし、アメリカのバイオ産業でも、ベンチャーリサーチ(研究)とベンチャービジネスの両方をできるという人は、なかなかいないのが現状です。私はバイオの最先端企業の研究所にいたので、研究をしながらビジネスの良い面、悪い面もいろいろと見てきました。その上で、これからは研究とビジネスをうまく両立していくことが大切だと感じています。
日本では、そのようなビジネスはどうなんでしょうか?
----千田
英語が普通に話せて、研究とビジネスのことを理解している日本人の方は、まだ極めて少ないのではないでしょうか。大学や国の研究機関で研究だけしていたら、なかなかビジネス的な視点を持つことができませんからね。そういったことができる人材が育つ環境を作る必要もあると思います。また、日本のビジネスの人のほとんどが普通に英語を話せない。いろいろな意味で、日本ではまだまだこれからの分野だと思いますね。
具体的にはどのようなビジネスを展開されているのですか?
----千田
日本やアジアへの進出を考えている米国のバイオ関連企業と、それを受け入れていく側のリエゾンとなる役目です。日本には、まだ明確なライフサイエンスのマーケットが確立されていません。そのようなところで企業と企業をマッチングしたり、バイオ事業展開のストラテジー・プランニングなどを行っています。また、日本の企業の方々には、同様の米国への事業参入のサポートをしています。
これから絶対に注目の分野ですよね。
----千田
いい研究をして、ビジネスとして確立していくには資金が必要です。また、ビジネスを発展させていくには、人と人の繋がりも重要です。人々の文化、企業の風土もアメリカとは違う部分も多い中で、新たなマーケットを作っていくというのは、なかなか理解してもらえない部分もあって大変ですが、日米の違いや、研究とビジネスの両方を知る我々が、いろいろな要素を“リエゾン”していければ、新しい可能性が生まれてくるのではないかと考えています。
まさにその通りだと思います。
|