----御社の現在の事業は、CRMに関する事業ですよね。それを目指されたのはいつ頃からなのですか
1997年に無料メーリングリストを提供し、そのメーリングリストを広告媒体とする事業を立ち上げました。最初は目の前のことを必死にクリアしていくだけでしたが、そんな中でも将来の事業展開をいろいろと模索していました。ひとつの柱だけで大きく事業展開していくのは難しいですからね。そんな中で1999年から2000年頃に構想した事業を、今実現していっているという感じです。
----インターネットにおけるマーケティングの重要性を見抜いていらっしゃったんですね。
新たなサービスとしてクライアント様に何を提供できるのか?、と考え、多くのクライアント様にご意見を伺いました。その本音に真摯に耳を傾けてみると、例えば広告費100万円を投下したら、100万円以上の利益を得たいと望まれているんです。そうするためには、広告によって新規のお客様を獲得するだけではなくて、広告に反応したお客様を管理して、アプローチしていくことだと思ったんです。それが言葉でいうと、「CRM」だったというわけです。ですから別にCRMをやろうと目指していたのではなくて、クライアント様のニーズに応えようと思ってやってきたら、それがCRMだったということなんです。
----今、CRMにはどの企業も注目しています。まさにそれを予見されていたんですね。
世の中には多種多様のトレンドがあります。私自身はそんなに才能や能力がある人間ではありませんが、私にはそのたくさんあるトレンドの中で、広告やその周辺領域、そしてマーケティングに関するトレンドはある程度見えているとは思います。さまざまなトレンドが立ち上がっていく中で、そのなかのCRMに関しては、今後も私たちの予見が当たっていくんだろうなぁ、とは感じています。
----昨年は上場もなされました。その達成の秘訣は?
ひと言で言ってしまえば、“ラッキー”ですね。まず、インターネットが盛り上がってくる時代に生まれたこと、これがこの事業を現在やっている上での最大の幸運です。そしてNTT時代に創業メンバーと出会ったのもラッキー。ITバブルが訪れる前に業界参入し、2000年頃には既に30万人のユーザーを持っていたことも本当にラッキーでした。そして上場に関しては、財務や資本に関して精通した現在の副社長との出会いがあったからこそだと思っています。
----皆さんからよく成功の鍵は「運」だとお聞きしますが、それだけでは……。
事業成功の鍵は「あ・い・う・え・お」というものだという話があります。すべてに“ん”が付くんです。「あ」は『案』、どんな事業をするかということ。そこを見誤っていては成功はありません。「い」は『員』、人員・人材に恵まれることです。「う」は『運』で、いろんな意味での運ですね。「え」は「縁」、よい出会いをどう活かしていけるかということ。そして最後の「お」は『恩』、これまで頂いた多くの恩をどのように返していくかということです。決して私ひとりの力で会社を経営できているわけではありません。私は日々そう考えています。
----確かにすべてが経営者として大切にしたいことですね。
----では、これから企業としての方向性と、谷井さんの目指すところをお伺いしたいと思います。
そうですね、企業としては、さらにCRMを日本で広めていかなければいけないと考えています。今後いっそう成熟を重ねていく日本において、お客様一人ひとりを大切にするCRM戦略は、企業のマーケティング活動において、もっともっと必要になってくるものです。弊社はそのような企業ニーズに応えられるサービスを提供し続け、成長していきたい。さらに言えば、CRMは日本だけではなく韓国や中国も含め、アジア圏全体で重要になってくるものだと思います。弊社の事業もグローバルに展開することを考えていくつもりです。
----大阪を本社にそれを進めていくと?
本当に実力があり、価値のある事業であれば、場所はどこでも勝負できるものだと思います。私個人としては大阪生まれなので思い入れはありますが、ビジネスとして考えるなら、本社が東京だとか大阪だとかドメスティックなことを言っているのではなく、本社は日本、日本の会社として世界レベルで評価されるようになりたいですね。
----ぜひそうなっていただきたいと思います。最後に谷井さんの個人的なお考えで結構なのですが、企業家として目指すところをお聞かせください。
ちょっと大げさかもしれませんが、個人としては事業活動を通じて素晴らしいしっかりとした「親」を作らなければいけないと思っています。最近、日本人の道徳観が薄れつつあると感じるのは、突き詰めるとその理由は家庭での躾ができていないからなのではないでしょうか。では、躾をしなければならない親は何をしているのでしょうか? 普段は会社で働いているわけですよね。その親たちが厳しい仕事の中で人間性を高めていって、そんな仕事に取り組んでいる親の姿を子どもたちが理解すれば、社会性や道徳観も取り戻せるのではないか、と思うのです。社会における仕事の意義などを親が子どもに語ってあげたりしてね。ですから会社の規模を拡大することにも意義があり、企業として成熟し社会によい影響を与えられる存在になることは重要なことだと考えています。
----素晴らしいお考えですね。
企業家は創業時は儲けようと思っていたり、人と違ったことをして評価されたいと思っているもので、何かを“得よう”としていることが多いのではないでしょうか。しかし、企業家=事業を営んでいく者、つまり経営者の本質は“与える”ことにあると私は考えています。お客様にも、株主様にも、従業員にも、今後起業する方たちにも、そして社会にも、何かを提供していくこと。事業を成長させ成熟させていくことで、自分はそうあり続けたいと思っています。
----本当にしっかりしたお考えをお持ちだと思います。本日はどうもありがとうございました。
(2008年5月27日取材)
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